妊娠高血圧腎症スクリーニング検査
母体血清マーカーを用いて、妊娠後期に妊娠高血圧腎症が起きる可能性を確率計算する検査です。
妊娠高血圧症候群・妊娠高血圧腎症とは?
妊娠中に高血圧になる方は約20人に1人。決してめずらしいことではありません。
妊娠20週以降に高血圧が出てくる病気の総称が「妊娠高血圧症候群」です。
分類としては、以下のようになります。
- 妊娠高血圧症:高血圧のみある場合
- 妊娠高血圧腎症:高血圧に加えて尿たんぱくが出る
- 高血圧合併妊娠:妊娠前から高血圧があった、または20週までに高血圧を確認
診断基準は以下の通りです。
- 高血圧:収縮期140mmHg以上または拡張期90mmHg以上
- 重症高血圧:収縮期160mmHg以上または拡張期110mmHg以上
なぜスクリーニング検査が重要なのか?
早期発見・早期予防には次のようなメリットがあります。
効果的な予防法があります
妊娠12〜13週台に低用量アスピリンを開始することで、妊娠高血圧腎症の発症を約60〜80%予防できることが報告されています。
16週以降の開始では予防効果が低下する可能性があるため、早期の開始が重要です1)2)3)。
重症化を防げます
妊娠34週未満で発症するタイプは母子ともに合併症のリスクが高く、早期にリスクを把握することで適切な管理が可能となります4)。
安心の妊娠管理ができます
ハイリスクと判定された方は、より頻回な健診や専門的な予防管理を受けることで、安全な妊娠・出産につながります1)4)。
母体・胎児への影響
妊娠高血圧腎症は母体にも胎児にもさまざまな影響を与えます。
母体への影響
- 脳卒中(脳出血・脳梗塞)
- 子癇(けいれん発作)
- 肝機能・腎機能障害
- HELLP症候群(重篤な血液・肝臓の合併症)
胎児への影響
- 胎児発育不全・低出生体重
- 胎盤の早期剥離
- 胎児機能不全・胎児死亡
重症化すると、母体にも胎児にも命に関わることがあり、治療として早産や帝王切開が必要になることもあります。
なりやすい方(リスクファクター)
以下のいずれかに当てはまる方は、特にスクリーニング検査をおすすめします。
- 妊娠中の急激な体重増加、肥満または痩せすぎ
- 高血圧の傾向がある
- 母親や姉妹が妊娠高血圧症候群だった(リスク約3倍)5)
- 糖尿病、腎臓病、自己免疫疾患、心疾患の既往
- 高齢出産(35歳以上)
- 体外受精・顕微授精、または多胎妊娠
- 血液検査でヘマトクリット値が高い
検査の詳細
検査時期は妊娠11週〜13週6日が推奨されます。
この時期の検査が最も有効とされています。
検査方法は、母体血清マーカーなどを用い、妊娠高血圧腎症になるリスクを統計的に算出する方法です。
この検査は確定診断ではなく、あくまでリスク評価を目的としています。
ハイリスクと判定されても、必ず発症するとは限りません。
しかし、リスクが高ければ予防が可能であるという点が最大の意義です。
予防と治療
低用量アスピリン療法について
- 妊娠12週から13週台に開始することで、最も予防効果が高いとされています。16週以降の開始では効果が薄れる可能性があります1)2)3)
- 発症リスクを60〜80%減少させたという報告もあります3)6)7)
- 当院でも処方可能(自費診療)(当院の場合)費用:妊娠期間中の合計で約2,000〜3,000円程度
そのほかの予防管理としては、以下のような日常管理が有効です。
- 急激な体重変化の予防
- 塩分摂取を控える
- ストレス・睡眠をしっかり管理する
- 適度な運動
- 家庭での血圧測定と記録
遺伝的な関係
母親が妊娠高血圧腎症を経験していると、娘が妊娠したときのリスクが約3倍に高まると報告されています5)。
また、家族に高血圧や糖尿病、腎疾患がある場合もリスクが上昇します。
長期的な健康への影響
妊娠高血圧腎症を経験すると、将来の高血圧・心疾患・脳卒中などのリスクが高くなることが分かっています4)。
さらに、生まれた赤ちゃんも将来的に生活習慣病にかかりやすい可能性があるとされています5)。
費用
検査項目
妊娠高血圧腎症スクリーニング検査 | 20,000円(税込) |
---|
※当院で妊婦健診を実施している方、または精密超音波検査を実施している方は10,000円(税込)で行います
予防治療
アスピリン予防内服(妊娠中合計) | (当院の場合)約2,000〜3,000円(自費診療) |
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なぜこの検査を受けるべきなのか
- 予防法がある:適切な時期にアスピリンを始めれば予防が可能
- 重症化を防げる:命に関わる合併症のリスクを下げられる
- 安心して過ごせる:リスクに応じた適切な管理ができる
- 将来の健康にもつながる:母子の長期的な健康を守る第一歩
検査を受けても変わらないのではなく、検査結果によって未来を変える選択ができることこそ、この検査の意義です。
当院の取り組み
豊洲レディースクリニックでは、妊娠12週0日〜13週6日の方すべてに妊娠高血圧腎症スクリーニング検査をご案内しています。
リスクが高いと診断された場合は、低用量アスピリンを中心とした科学的根拠に基づく予防プランをご提案いたします。
安心して出産を迎えられるよう、これからも体制を整えてまいります。
参考文献
- 1. Cui, Y., et al. (2018). Low-dose aspirin at ≤16 weeks of gestation for preventing preeclampsia. Experimental and Therapeutic Medicine, 15, 4361–4369.
- 2. Xu, T., et al. (2015). Low‐Dose Aspirin for Preventing Preeclampsia and Its Complications: A Meta‐Analysis. The Journal of Clinical Hypertension, 17, 567–573.
- 3. Gabra, A., et al. (2019). Low Dose Aspirin as a Reliable Preventive Tool of Preeclampsia. Journal of Clinical Pediatric Emergency Medicine, 5.
- 4. LeFevre, M. (2014). Low-dose aspirin use for the prevention of morbidity and mortality from preeclampsia. Annals of Internal Medicine, 161(11), 819–826.
- 5. Ruano, R., et al. (2005). Prevention of preeclampsia with low-dose aspirin – a systematic review and meta-analysis. Clinics, 60(5), 407–414.
- 6. Gu, W., et al. (2020). Effects of low-dose aspirin on the prevention of preeclampsia and pregnancy outcomes. European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology, 248, 156–163.
- 7. Sinha, N., et al. (2023). Comparing the Efficacy of 75mg Versus 150mg Aspirin for the Prevention of Preeclampsia. Cureus, 15.
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