監修:土肥 聡〔臨床遺伝専門医・指導医/超音波専門医・指導医/産婦人科専門医・指導医〕 最終更新日:2026/07/22
はじめに
NIPT(母体血を用いた非侵襲性出生前遺伝学的検査)の結果で『陽性』と告げられたとき、多くの方は強い不安に襲われます。頭が真っ白になり、インターネットで検索するものの、目に入るのはネガティブな情報ばかり
...そうしたお声を、私たちは診療の現場でたびたび伺います。
このコラムでお伝えしたいのは、たった一つのことです。
NIPTの陽性という結果は、赤ちゃんに染色体の変化があることを「確定」させるものではありません。
まずはこの点を、落ち着いてご理解いただきたいと思います。以下、NIPT陽性の医学的な意味と、これからの進み方について、順を追ってご説明します。
1. 『NIPT陽性』とはどのような結果か
NIPTは、妊婦さんの血液に含まれる「cell-free DNA(セルフリーDNA)」という微量なDNA断片を解析する検査です。この cell-free DNA の多くは胎盤に由来しており、その量的な偏りをもとに、赤ちゃんの染色体の状態を推定しています。
『陽性』という結果は、染色体に変化がある可能性が統計的に高いことを示す所見であって、診断そのものではありません。この違いは、NIPTを理解するうえで最も重要な出発点となります。
NIPTは、その性質上、「スクリーニング検査(ふるい分け検査)」に分類されます。診断を確定するためには、別の検査(確定検査)が必要です。
参考:日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会「一緒に考えよう、お腹の赤ちゃんの検査」

2. 『NIPT陽性だからと言って確定診断ではない』ーまず、これを認識してください。
医療の世界では、検査には大きく二つの種類があります。
| スクリーニング検査 | 確定検査 | |
|---|---|---|
| 目的 | 可能性を評価する | 診断を確定する |
| 例 | NIPT、母体血清マーカー検査、コンバインド検査 | 羊水検査、絨毛検査 |
NIPTはこの表の左側、スクリーニング検査にあたります。したがって、NIPTで陽性となった場合、次の一歩として確定検査を検討するという流れが、国内外の指針で共通して示されています。
NIPTの結果のみをもって、妊娠の継続や終了について判断することは、国内外のガイドラインで推奨されていません。 これは、患者さんご自身のためにも、赤ちゃんのためにも、必ず知っていただきたい原則です。
3. 陽性的中率(PPV)という考え方
「陽性」と判定されたときに、実際に赤ちゃんに染色体の変化がある確率を 「陽性的中率(Positive Predictive Value:PPV)」 と呼びます。
この陽性的中率は、染色体の種類と妊婦さんの年齢によって大きく変わります。以下は、公表されている代表的な数値の例です(施設・報告により幅があります)。
21トリソミー(ダウン症候群)の陽性的中率の目安
妊婦さんの年齢 : 陽性的中率の目安
- 25歳約 : 50〜60%台
- 35歳約 : 80%台後半
- 40歳約 : 90%台前半
18トリソミー・13トリソミーの陽性的中率は、21トリソミーよりも一般に低くなる傾向があります。特に13トリソミーでは、陽性であっても半数以下が確定検査で陰性となる、という報告もあります。
つまり、「陽性 = ほぼ確実に染色体の変化がある」わけではなく、染色体の種類や年齢によって、その意味合いは大きく異なるということです。
参考:日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会「NIPTを受けた10万人の妊婦さんの追跡調査」

4. なぜ「偽陽性」が起こるのか
NIPTで陽性と出ながら、確定検査では染色体の変化が見つからない ― これを「偽陽性」と呼びます。偽陽性が起こる背景には、いくつかの医学的理由があります。
主な理由:胎盤限局性モザイク(CPM)
NIPTが解析している cell-free DNA の多くは、胎児本人ではなく胎盤に由来します。ところが、胎盤の細胞と胎児の細胞の染色体構成が一致しないケースが、一定の頻度で存在します。これを「胎盤限局性モザイク(Confined Placental Mosaicism:CPM)」と呼びます。
この場合、NIPTは胎盤の情報を反映して「陽性」と示しますが、赤ちゃん自身の染色体は正常、ということが起こり得ます。CPM は、NIPT偽陽性の代表的な原因の一つとして知られています。
参考:日本産婦人科医会「胎盤性モザイクについて」

そのほかの理由
- 母体側にわずかな染色体の変化がある場合
- 消失した双胎(vanishing twin)の影響
- 母体の稀な体質的要因
これらは決してまれな話ではなく、「陽性 = 確定ではない」ことの医学的な根拠そのものです。
5. 次の選択肢の1つ:確定検査(羊水検査・絨毛検査)について
NIPTで陽性となった場合の次のステップとして、確定検査の選択肢があります。代表的なものは羊水検査と絨毛検査です。いずれの検査も、受けるかどうかはご夫婦の意思決定によるものであり、医療者から一方的に勧められるものではありません。十分な情報提供と、遺伝カウンセリングを経て、ご自身で選択していただく検査です。
羊水検査
妊娠15〜16週以降に、お腹から細い針で羊水を少量採取し、赤ちゃんの細胞を用いて染色体を調べる検査です。診断精度は非常に高く、確定検査として広く用いられています。
妊娠中期(通常15週以降)に行う羊水検査によって追加される流産リスクは、近年の大規模なシステマティックレビューおよびメタ解析では約0.1%前後と推定されており、研究の選択方法によっては約0.3%程度までと報告されています。
これは、およそ1,000人に1人から300人に1人程度に相当し、従来一般的に説明されていた約0.5%より低い可能性が示されています。¹˒²
《参考文献》
1. Akolekar, R., Beta, J., Picciarelli, G., Ogilvie, C., & D’Antonio, F. (2015). Procedure-related risk of miscarriage following amniocentesis and chorionic villus sampling: A systematic review and meta-analysis. Ultrasound in Obstetrics & Gynecology, 45(1), 16–26.
2. Salomon, L. J., Sotiriadis, A., Wulff, C. B., Odibo, A., & Akolekar, R. (2019). Risk of miscarriage following amniocentesis or chorionic villus sampling: Systematic review of literature and updated meta-analysis. Ultrasound in Obstetrics & Gynecology, 54(4), 442–451.
絨毛検査
妊娠11〜14週頃に、胎盤の一部(絨毛組織)を採取して調べる検査です。羊水検査より早い時期に実施できる利点があります。
6. 胎児超音波検査が果たす役割
NIPT陽性の結果を受け止めるうえで、胎児超音波検査は非常に重要な情報を提供してくれます。
超音波検査では、赤ちゃんの体の各部位を詳しく観察することで、染色体の変化に関連することが知られている所見(超音波マーカー検査と呼ばれます)や、構造的な変化の有無を評価することができます。
NIPTの結果だけでなく、超音波所見と合わせて総合的に評価することが、その後の判断を助けます。特に、精密な胎児超音波検査を実施できる医療機関では、以下のような統合的な情報整理が可能です。
- NIPTで示唆された染色体変化と超音波所見との整合性
- 確定検査を検討するうえでの参考情報
- 稀な染色体変化・遺伝性疾患を考慮すべきかどうかの判断材料
7. 相談先の選び方 ― どこに、誰に相談するか
NIPT陽性の通知を受けたあと、多くの方が最初に悩まれるのが「どこに、誰に相談すればよいか」です。
相談先を選ぶ際に、参考にしていただきたい観点があります。
確認しておきたいポイント
- 検査後のフォローとして遺伝カウンセリングを受けられる体制があるか
- 陽性所見について、偽陽性の背景(胎盤限局性モザイク等)まで含めた説明を受けられるか
- 必要に応じて、確定検査を実施できる施設との連携があるか
- 胎児超音波検査による精密評価が可能か
- 検査後、継続的にフォローしてもらえる体制か
これらは、NIPT実施施設が「認証施設」であるかどうかとは別に、担当する医師の専門的背景によって、対応の深さが変わってくる領域です。認証施設制度そのものは、一定の水準を担保する重要な仕組みですが、そのうえで、担当医の専門性という別の観点からも情報を集めていただくことをお勧めします。
8. 豊洲レディースクリニックでできること
当院では、NIPT陽性の結果を受けて不安を抱えていらっしゃる妊婦さん・ご家族に対して、以下の体制でご相談をお受けしています。
当院の診療体制
- 臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリング
- 日本超音波医学会超音波専門医、FMF(Fetal Medicine Foundation)認定資格に基づく精密胎児超音波検査、総合的な胎児評価
- 確定検査実施施設
- 検査後の継続的なフォロー
NIPT陽性という結果は、大きな不安をもたらすものです。しかし、その結果が意味することを一つひとつ整理し、超音波所見を含めた総合的な情報のなかで理解を深めていくことで、「今、何を知りたいのか」「次にどう進みたいのか」を、患者さんご自身のペースで考えていただくことができます。
私たちは、その過程に寄り添うことを大切にしています。
最後に、もう一度お伝えしたいこと
NIPT陽性は、診断ではありません。 NIPTの結果だけで、妊娠の継続について判断することは、国内外のガイドラインで推奨されていません。
不安なとき、情報が多すぎて何を信じてよいかわからなくなったとき ―どうか一人で抱え込まず、専門的な相談ができる場所を頼ってください。
セカンドオピニオンとしてのご相談も、当院ではお受けしております。
ご相談のご案内
お問い合わせ:当院代表 03-5534-9700
関連コラム
参考文献・情報源
- 日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会「一緒に考えよう、お腹の赤ちゃんの検査」
- 厚生労働省「NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設認証の指針」(PDF)
- 日本産婦人科医会「胎盤性モザイク(CPM)について」
- 日本医学会「NIPTを受けた10万人の妊婦さんの追跡調査」
免責事項:本コラムは一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診療行為を保証するものではありません。ご自身の状況については、必ず医療機関にご相談ください。









